産経新聞「健康ライフ」記事
高まるトクホの関心度 〜食生活の基本ルール守り賢い利用法を
 健康ブームの中、「特定保健用食品(トクホ)」に対する関心が年々、高まっています。メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)や生活習慣病の境目にいる人たちにとっても、予防や体調を整えるよいサポート役として、認知度が深まってきたからなのでしょう。だからこそ、食品中の「有効成分」などの栄養素などの科学的根拠や公的基準を確かめることが大切です。

 いわゆる健康食品とトクホとは、どう違うのか。自分の健康を維持するために、一番有効な方法とはなにか。栄養学に詳しく長年、トクホの審議にも携わった大妻女子大学家政学部教授の池上幸江氏に聞きました。

認知度のアンケートでは・・・
 日本栄養・食糧学会の学会活動の一環で一般の方々にトクホの認知に関するアンケートをしたところ、特に若い人を中心に女性では72.9%、男性で54.5%と高い数値が出ています。中でもメタボの影響か、「体脂肪」への興味が多く結構、トクホに対する理解も進んできているようです。最近の市場規模としては、7,000億円と推計されています。

なるほど、すごい勢いですが、先生はトクホ制度発足から関わっていますね?
 トクホ、つまり特定保健用食品は、私がまだ国立健康・栄養研究所にいたころの1980年代に、主に農学部の研究者を中心に文部省の特定研究から立ち上がったのです。食品の機能には、1)栄養的な機能、2)おいしいなど嗜好面での機能、そして3)栄養面とは別に健康に関わる機能を持っていることなどを明らかにし、このうち3)の働きに着目した第3次機能から「機能性食品」という言葉が生まれ、一般の食品企業も付加価値を求めてそうした機能性に富む食品開発が進んできたのです。
厚生労働省も・・・
 いろいろ出回るようになったので、厚労省として公衆衛生的に消費者の健康保持のためにも表示制度が必要となり、同時に機能性食品に関する検討会も立ち上げていたのですが、1991年に「栄養改善法」のもとで、「特定保健用食品」と名称を改めて制度化したのです。
世界で初めて・・・
 その通り。世界で最初に食品が健康に関わる表示、つまり「健康強調表示」を導入し、個別審査を経て国が許可する制度となりました。1993年に第1号、以降現在まで約800種ものトクホ食品が生まれているというわけです。その後2002年には、「栄養改善法」から変わって、「健康増進法」によって規定されています。この制度の発足には、消費者の健康意識の高まりとともに、食品成分の機能に関する研究開発などが大いに進歩した影響もあってのことなのでしょう。
いわば、世界の先進国でもあったわけですね?
 機能性食品の英語版「ファンクショナル・フード」という言葉は、今でもヨーロッパで使われています。日本が先鞭をつけた食品の健康強調表示の概念が国際的にも認められるようになり、規格の統一性や貿易の障害にならないように、例えば、「FAO/WHO食品規格委員会(通称CODEX)」においても、参加各国の検討の結果、2004年の総会で「栄養及び健康強調表示の使用に関するガイドライン」が合意されています。特定保健用食品は基本的に「栄養素以外の機能表示」に該当しますが、その後、国際的にも、「栄養機能表示」や「疾病リスク低減表示」も掲示できる新たな制度が誕生したのです。
・・・というと?
 わが国では、トクホに関しては、「医薬品との区別もあり、病気の治療や予防に関する表示は一切禁じられていますが、国際的にも食品と医薬品の区別は成分も表示も厳密に行われています。国際的な動向に合わせて、2001年に「保健機能食品制度」が発足。特定保健用食品は、新たに設定された「栄養機能食品」とともに、「保健機能食品」の一つとして位置づけられました。さらに消費者への情報提供やニーズも進む一方なので、2004年には再度見直され、現行の許可制度は維持したうえで、食品成分の科学的根拠が医学的、栄養学的に十分に明らかにされているならば、表示内容も、もっと充実させようということになったのです。
それが、新制度ですね?
 2005年には特定保健用食品の枠の中で新たに「条件付特定保健用食品」「規格基準型」が加わり、前者は、ヒト試験の有効性などがやや不確定な場合。後者は従来から許可件数が多いなど個別審査を必要としない場合などですが、画期的なのは、特定保健用食品の中の「個別審査許可型」では、疾病リスクの低減表示を掲示することが可能になったことです。ただ、わが国では現在、「カルシウム」についてのみ許可されている段階です。
トクホの審査について
 現在、トクホの審査は「有効性」と「安全性」の2段階あり、有効性は厚労省の「薬事食品衛生審議会」、安全性については内閣府の「食品安全委員会」で審査されます。最終的にその2つをクリアしたものについて厚労省が統括して許可を出すシステムになっています。まず、申請者やメーカーは自治体に届け出て、厚労省へ進むことになりますが、有効性の段階で一定の評価を得なければなりません。私は以前、両方の審査に関わっていましたが、さまざまな要件をクリアするのはむろんのこと、肝心なのは、表示許可は食品そのものに与えられるのものであって、関与する成分に与えられるものではないことをしっかり認識して欲しいですね。最終的に消費者の口に入る商品で、有効性や安全性を測るのが原則で、ちゃんとヒトでの試験を経たうえで、健康強調表示の資格が得られるのです。
例えば・・・?
 一番多いのは、「お腹の調子を整える」といったものですが、やや便秘がちの人たちなどを対象にして、実際にはダブルブラインド方式が望ましいのですが、プラセボ(偽薬)群と対比して統計的に5%の水準以上の有意差がないと認められない、厳しい基準となっています。そして次に「有効量」と呼んでいますが、1日どのくらい摂取すれば有効なのか、そういう表示を必ず設定しなければいけない。また、設定した有効量の3倍も5倍も過剰摂取する人がいることを想定して、ある程度過剰摂取しても問題ないことを確認する試験や三ヶ月以上摂取しても安全であることを確認する試験も必要になります。さらに特定の疾患を持っている人や妊婦、子供に対する安全には、摂取しない方がいいなどと、必ず注意書きをする場合もあります。
今までの例では?
 一般にトクホの有効性は、毎日、排便習慣が順調な人では効果が表れにくいのですが、便秘がちな人には、例えば食物繊維などがよく効きます。また、やや肥満の人には効き具合が良かったり、血糖値が高めの人たちが血糖改善効果のあるトクホでの試験でクリアな結果が出るなどのケースが見受けられます。しかし、明らかに医師の診療が必要なほど病域に入っている人は対象外、まったく健康で正常な人には、はっきりとした影響は出ないと見るべきでしょう。今後、管理を怠れば高血圧や糖尿病に陥る恐れのあるような方々が、トクホのターゲットになることは間違いありません。
今後、トクホは消費者にとって、どうあるべきでしょうか
 トクホには、必ずその商品のラベルに「食生活は主食、主菜、副菜を基本に、食事のバランスを」と書くことを義務付けられています。散々、暴飲暴食したあとでトクホで何とかしようというのは、無理な話なのです。だから、まず日常の食生活などの基本ルールを守って、そのうえでもなお、自分の体が生活習慣病などの病域との境目にあり、疾病に陥ってしまいそうなことが意識されるようになったら、一般の食事の節制などと併せてトクホを利用するのが、一番賢い利用の仕方だと思うのです。当初、トクホも「明らか食品」と呼ばれ、一般食品と同じような形でなければなりませんでしたが、規制緩和の波に乗って、今や錠剤やカプセル品も登場しているわけです。安全性については、とても神経を使って審査していますが、要望としては、きちんと保健の用途や摂取方法の表示や注意書きを見て使用してほしいことですね。
普通の食品でも栄養成分に関する表示で、ちょっと気になるのは、そのただし書きが目にとまらなかったりする・・
 確かに。栄養成分については、日本の場合、自分勝手に好きなものだけ表示してはいけないなどと厳しく規制されてはいますが、やや表示が目につきにくく、わかりにくいところがあります。米国では、いくつかの例外を除いては生鮮食品も含めすべて表示義務があり、「あなたの1日の必要な栄養素量の○%に当たる」などの表示の仕方になっています。これからは、それほど知識はなくても、消費者が表示を見てたやすく自己判断できるようなことが必要でしょうね。野菜の消費がどんどん落ちている現在、農水省とも協力して生鮮食品の栄養価の表示もできるようにと検討段階に入っていることを報告しておきます。

【プロフィール】池上幸江
大阪大学薬学部卒業。薬学博士。厚生省国立衛生試験所大阪支所研究員となり、ミシガン州立大学研究員、国立健康・栄養研究所食品科学部長を経て現職。専門は栄養学、栄養生化学。日本食物繊維学会理事長、厚労省薬事・食品衛生審議会委員・内閣府食品安全委員会専門委員などを務める。

<産経新聞2008/10/02>

2008年12月更新